東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)29号 判決
一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一) 審決理由の要旨によれば、審決は、本願第一発明と引用例記載のタイヤの対比に当たり、後者を「トレツド補強物と、ビードからトレツド近縁に沿つて伸長し、ビードとトレツド間のラジアル面に並べられ、トレツド部分の下では赤道面と鋭角をなしたコードプライから成るカーカス補強物とを有するラジアルタイヤ」であるとして前者と対比し、トレツド補強物を構成するコードプライが、本願第一発明においては、赤道面と鋭角をなして並べられているのに対して、引用例においては、赤道面と平行状に配列されている点にのみ、両者の相違点を見出したことが認められる。
(二) ところが、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例記載のタイヤ(引用例の図面第五、第六図参照。別紙第二図面)においては、トレツドの疲労を生ぜしめるトレツドの縦方向及び横方向のクリーピングに対抗するための補強物であるストリツプ(プライ)は、機能的にも構造的にもA群とB群とに分けられ、A群のプライは縦方向すなわち赤道面と平行のコードプライにより形成されて縦方向のクリーピングに対する単一機能を有し、B群のプライは横方向のクリーピングに対抗する目的で偶数個が対として用いられ、第六図の構造体(実施例)においては、B群のプライは偶数個のカーカスプライ7、8の各一部に組み込まれ、その各コードはトレツド下の部分においてはタイヤの赤道面に対称に30°ないし70°傾斜するように交叉して配置され、これによつて対称性を保たせたうえ、この部分にトレツド補強機能が与えられていることが認められる。したがつてプライ7とプライ8は密接不可分の関係にあると解される。
(三) そうすると、審決は、引用例記載のタイヤにつき、右のように不可分の関係にある偶数個のカーカスプライ7と8のうち一方のみを他方との関係を捨象して抽出し、右タイヤを前記(一)記載のものとして本願第一発明と対比したうえ、本願第一発明は引用例から容易に発明できたと判断したものである。
(四) 一方、本願第一発明においてカーカスプライが一つであることは補正された特許請求の範囲に明記され、また原本の存在と成立に争いのない甲第二号証の一及び三(本願明細書及び昭和四九年六月一五日付手続補正書各写し)によれば、本願第一発明では、カーカスプライのコードをタイヤの赤道面と鋭角をなすよう傾斜配置するにあたり、その傾斜方向が少くとも一つのトレツド補強物プライのコードの傾斜方向と異なるように交叉させて配置し、これによつて、いずれもそれ自体では非対称であるカーカスプライとトレツド補強物プライとが相まつてタイヤの対称性を保たせるように、関連的に構成されていることが認められる(別紙第一図面参照)。
そうすると、審決は、本願第一発明と引用例記載のものとの間には、審決が相違点として挙げた点のほかに、請求の原因(四)1(1)ⅰⅱ記載の点においても相違があることを看過したといわなければならない。
(五) 被告は、本願第一発明においてカーカスプライとトレツド補強物プライとが相まつてラジアルタイヤの非対称性を解消ないし補正するという点については本願明細書中に記載がないと主張する。しかし、ラジアルタイヤ(本願のものがこれに該当することは構造上明らかである。)において対称性保持は必然的な技術上の前提であると考えられるばかりでなく、甲第二号証の一によれば、本願明細書には、「………単一トレツドプライ及び単一カーカスプライに減じたような本発明による構造の著しい簡易性の利点は該構造を妨げる欠点を犠牲にしては得られない。基本的な特徴を省略することによつて簡易化したり又は軽量にしたりすることは常に可能であるが、かかることは本発明の場合にはない。これに反して、提案された簡易化は基本的品質の喪失を来さないのみならず、………タイヤの全体に汎る基本的品質を改善する。」(一七頁一四行目~一八頁三行目)との記載、及び「トレツドの下の半径方向でない部分の存在によつて可能となる一個のトレツド、プライの省略は明らかにタイヤの製造を簡易化しかつ材料を節約する。タイヤの性能、主にその路面保持能力、摩耗及び燃料消費に対し好ましくない代りに(本判決注。「好ましくないどころか」の意味に解される。)、この新規な構造は著しくかつ決定的にそれを高める。特に、横揺れに対する抵抗は全体的に半径方向なカーカスと少くも一個以上のプライ(本判決注。「複数のプライ」の意味に解される。)を具えたトレツド補強物とを有するタイヤに比し約25%だけ減じ得る。」(二一頁二行目~一一行目)との記載があることが認められ、これによれば、本願第一発明は、トレツド補強物プライのコードとカーカスプライのコードとを異なる傾斜方向で交叉させる構成によつて、タイヤの対称性を確保し、そしてタイヤの強度や横揺れ防止機能を維持ないし増進しつつ、構成を簡易化し、ひいて製法の簡易化をも可能にするという効果を奏させるようにしたものであると認められる。
(六) さらに、甲第二号証の一と甲第三号証とを対比検討すれば、前認定のように本願第一発明と引用例のものとの間でタイヤの対称性確保の方法が異なることは、トレツドの疲労の原因である縦方向及び横方向のクリーピングに対抗するためのトレツド補強物を提供するという課題解決の技術的原理を両者間で異にすること、すなわち本願第一発明はトレツド補強物プライとトレツド下のカーカスプライが共同して縦方向及び横方向のクリーピングに対抗しようとするのに対し、引用例のものは、トレツド補強物を二つの群に分割し、それぞれに縦方向、横方向のクリーピングに対抗する機能を分担させようとすることと由来すると解しうる。しかも、本願第一発明の右のような構成が周知であつたことの証拠はない。
(七) そうすると、審決は、前記二つの相違点を看過した誤りをおかしたものであるが、その第一の点、すなわちカーカスプライが一つであるか偶数個であるかの点それ自体は、従来対称のラジアルタイヤにおいてカーカスが一つのものも二つのものも周知であつたことが当事者間に争いがない以上、審決の結論への影響はないとみることができるが、審決が、第二の点、すなわちタイヤの対称性についての構成の相違を看過して、本願第一発明は引用例から容易に発明できたと判断したのは誤りであるというべきである。
三 よつて、審決は違法として取消を免れないから、原告の本訴請求を認容する。
〔編註その二〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
赤道面と鋭角をなして並べられた一あるいはそれ以上のコードプライから成るトレツド補強物と、ビードからトレツドの近縁に沿つて伸長しており、ビードとトレツドの間のラジアル面に、そして少なくともトレツドの一部の下では少なくとも一つのトレツド補強物プライのコードの傾斜と異なる傾斜で赤道面と鋭角をなして並べられた一つのコードプライから成るカーカス補強物とを有するニユーマチツクタイヤ
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙第一図面
<省略>
別紙第二図面
<省略>